タンパク質不足が引き起こす身体のサイン —— シニアが見逃してはいけない10の警告シグナル

タンパク質不足を知る身体からのサインってあるのかな

タンパク質不足の時に身体のサインを紹介してゆくよ
シニア層の健康維持には、やはり「タンパク質」に着目してほしい。
これは筋肉、皮膚、骨、血液、ホルモン、免疫細胞のすべてがタンパク質を原料としているからです。
シニアは食事量や消化機能がどうしても若年層より低下してしまいます、この影響で気づかぬうちにサルコペニア(筋肉量減少)、免疫低下、そして、フレイルへ進行するリスクが発生しやすくなりがちです。
参考資料:厚生労働省
健康長寿に向けて必要な取り組みとは?100歳まで元気、そのカギを握るのはフレイル予防だ
今回はタンパク質不足を示す代表的な体の警告サイン、具体的な改善方法まで体系的に紹介します。
シニア世代がタンパク質不足になりやすい科学的理由
食事摂取量の低下と「同化抵抗性」の上昇
高齢者では若年層に比べ、同じタンパク質摂取量で合成される筋タンパク質量(MPS:Muscle Protein Synthesis)が減少する現象が確認されています。これはアナボリック・レジスタンス(同化抵抗性)と呼ばれる。結果として、シニアは若年層より多くのタンパク質量が必要であり、1食あたり最低25–30g、特にロイシン2.5–3.0g以上の確保が推奨されています。

消化・吸収能力の低下
胃酸分泌の減少や消化酵素活性の低下が、アミノ酸吸収効率を低下させてしまいます。
家族と同じ食事をしているのに筋肉がつきにくいなど感じることもあるでしょう。
これは、十分に食べているつもりでも血中アミノ酸濃度が上昇しにくく、体内利用効率が落ちていることが影響しています。
慢性炎症と筋分解の促進
加齢に伴い軽度の炎症状態(Inflammaging)は、免疫系の障害による低度の炎症状態と言われています。
蓄積されているエビデンスでは加齢にともなう炎症状態の亢進が、サルコペニア、アルツハイマー病といった重要な加齢関係疾患の発症を誘発または促進する可能性があると示唆しています。
炎症因子は、直接的または間接的なメカニズムを通じて、筋肉の異化作用に悪影響を及ぼすと考えられています。
筋肉量、筋力、および筋肉質の低下は、炎症性因子(TNF-α、IL-6など)とも関連しています。Belizarioらは、高レベルのIL-6への長期曝露が筋肉の消耗を引き起こし、それが筋肉の異化を媒介して筋力を弱める可能性があることを実証しています。
参考資料:
Inflammaging: The ground for sarcopenia?

まとめると
加齢に伴う炎症状態は、長期的に筋肉を消耗させて弱らせる
ということになります
見逃し危険「タンパク質不足」10の警告サイン
ここでは、タンパク質不足によって発生する身体の10の警告サインについて解説します。
1. 筋力低下(ペットボトルの開封、段差がつらい)
握力や下肢筋力はタンパク質摂取不足の時、最初に影響を受ける部位と言われています。例えば、ペットボトルの開封が最近難しくなってきた、ちょっとした階段が辛いなど感じるサインです。
握力の低下は、物を運んだりする時にも使用する筋肉です。自ら物をもったり動いたりするのが億劫となることで、運動量が減り、結果、全身筋肉量の低下にもつながります。この筋力低下が進行しますと転倒リスクの可能性も高くなります。
2. 疲労が抜けない・朝から倦怠感
エネルギー代謝酵素、ホルモン、神経伝達物質(セロトニン、ドーパミン)はアミノ酸由来(つまり原料はタンパク質になります)。不足すると慢性疲労を感じるようになります。
3. 皮膚の乾燥・たるみ・ハリの低下
肌の70%はコラーゲン(タンパク質)。不足により真皮構造が弱まり、シワ・たるみ・乾燥・バリア機能低下を招く。

4. 髪が細くなる・抜け毛が増える
髪の主成分は85%~90%がタンパク質です。
タンパク質不足が続くと髪が栄養不足になり、髪が細くなったり、色素が薄くなったりする現象が発生しやすくなります。

5. 爪が割れる・薄くなる・縦線が増える
爪は主成分がケラチンという硬いタンパク質で構成されており、体内のタンパク質供給が不足すると真っ先に影響が出やすい部位の一つです。
具体的には、爪が薄くなる、縦スジが増える、欠けやすい、白い斑点が出やすくなる、伸びが遅くなるといった変化が起こります。
さらにシニア世代では加齢でタンパク質の合成効率が低下するため、食事だけで不足しやすく、爪の変化が「低たんぱく状態のサイン」として表れる場合があります。
プロテインや良質な食事で必要量を補うことで、爪の健全な成長を支えられます。

髪や、爪は定期的に目で見て手入れをすることから、気づきやすいのですね。変化があるか定期的に意識しよう。
6. ケガや傷の治りが遅い
タンパク質は、傷の修復や新しい組織の再生に不可欠な栄養素です。
ケガの治癒過程では、炎症後にコラーゲンや細胞外マトリックスが生成され皮膚・血管・筋組織が再構築されますが、その材料の大半がアミノ酸=タンパク質です。
タンパク質が不足するとコラーゲン合成が低下し、細胞増殖や血管新生(傷を治す血液供給の増加)が遅れ、治癒期間が延伸します。さらに免疫細胞もタンパク質で作られるため、感染防御が弱まり、傷が悪化しやすくなります。
特にシニアは同化抵抗性により必要量が増えるため、十分なタンパク質摂取が治癒促進と回復に重要です。
7. 風邪をひきやすく治りが遅い
風邪をひきやすく、治りにくい体質は、タンパク質不足と深く関連しています。
タンパク質は免疫細胞の主成分であり、抗体やサイトカインの生成に不可欠です。
不足すると免疫力が低下し、ウイルス侵入を防げず感染しやすくなります。
また、治癒過程でも組織修復にタンパク質が必要です。タンパク質が不足すると炎症が長引き、回復が遅やすくなります。
8. 浮腫(むくみ)が出る
浮腫とは、血管外に水分が漏れ、組織に溜まる状態です。
これとタンパク質不足は密接に関連しています。
血液中のタンパク質(主にアルブミン)は「浸透圧」を維持し、水分を血管内に留める役割をしています。このアルブミンが不足すると浸透圧が低下し、水分が血管から漏れ出し、足や顔などに浮腫が生じます。
特に低アルブミン血症では、肝臓でのタンパク質合成低下や腎臓からの喪失が原因で浮腫が顕著にでやすくなります。また、心不全や栄養不良でも同様のメカニズムが働きます。
参考資料
ネフローゼ症候群
9. 眠りが浅い・夜間中途覚醒
夜中に何度も目が覚める「夜間中途覚醒」は、タンパク質不足が引き起こすセロトニン欠乏と密接に関係しています。
セロトニンは「幸せホルモン」と呼ばれ、睡眠の質を安定させる重要な神経伝達物質です。このセロトニンはメラトニン(睡眠ホルモン)の原料でもあります。
このセロトニンは必須アミノ酸のトリプトファンから合成されますが、トリプトファンはタンパク質に多く含まれるため、タンパク質不足=トリプトファン不足となり、セロトニンが低下します。結果、脳内のセロトニン濃度が下がり、睡眠の深さ(徐波睡眠)が浅くなり、ちょっとした刺激で中途覚醒しやすくなります。
特に高齢者ではタンパク質の吸収効率が落ちるため、この影響が顕著です。研究では、夕食のタンパク質摂取量が少ない人は夜間覚醒回数が増える傾向が報告されています。セロトニン不足は不安やイライラも招き、中途覚醒の悪循環に陥ります。
つまり、タンパク質不足はセロトニン経由で睡眠の「連続性」を損なう要因。良質な睡眠には、トリプトファンを含むタンパク質が欠かせません。
参考資料(夕食のタンパク質摂取量と夜間覚醒回数の関係)
Association Between Dietary Protein Intake and Sleep Quality in Middle-Aged and Older Adults in Singapore
10. 体重は変わらないのに体型が変化する
筋肉が減り脂肪が増える「サルコペニア肥満」が進行すると、
体重はキープしてるのに、ウエストが増加して、脚はスッキリ細くなる
…そんな変化があると要注意。
これは「サルコペニア肥満」のサインです!
加齢や運動不足で筋肉量が減少(サルコペニア)。でも食生活が乱れると、減った筋肉の分を脂肪が埋め尽くす状態になります。
体重だけ変化がないと安心していても、お腹周りはぽっこり、脚や腕は細く…見た目も健康も大ピンチという事になります。

体重だけ見て安心したらダメ
シニアは体重と全身を鏡でスタイルの変化を見るようにしよう
即実践「タンパク不足リセット戦略」
シニア層はタンパク質を積極的に摂る必要があります。
タンパク質不足リセットを行いましょう。
1日の目標は「体重1kg × 1.2–1.5g」
一日に摂取するタンパク質の目標は体重1kg × 1.2–1.5gです。
例は次の通りです
例)体重60kg → 72–90g/日を目標
分散してタンパク質を摂ろう
一度に沢山タンパク質をとっても一定量で吸収が飽和してしまいます。
そこで、食事も合わせて分散させてタンパク質を確保することです。
食事で30gずつタンパク質を摂るのも方法の一つですが、量も多くなりカロリーオーバーの弊害もあります。また、働くシニア層は工夫して食事を制限することも難しいかと思います。
そこで、朝起きた時と、寝る間にプロテインを摂るということをおすすめします。
プロテインは必要なタンパク質も分散して確保できますし、吸収も高いのでおすすめです。
ロイシン2.5–3.0gを含む食材を選ぶ
プロテインにもロイシンが含まれていますが、食事にもロイシンを意識してとると高い効果が期待できます。
高ロイシン食材の例:
- 鶏むね 100g(ロイシン: 2.6g)
- 鮭 100g(2.2g)
- 卵 2個(1.1g)
- ホエイプロテイン1杯(2.5–3.0g)
消化負担が少ないおすすめパターン
早朝:ホエイプロテイン+水(10秒で摂取完了)
朝食:卵・ヨーグルト・サラダチキン・高たんぱくパン
昼食:おにぎり+サラダチキン、または鮭・ツナ
夜:主菜+副菜+発酵食品で吸収サポート
寝る前:ホエイプロテイン+豆乳
誤解されやすい3つのポイント
1. 「食事は取っている ≠ タンパク質は足りている」
どうしても普段の生活は炭水化物中心の食事になりがち、「ちゃんと食べているのに…」と思っていても、タンパク質は不足となります。
注意することは「食事量 ≠ タンパク質量」ということです。
ご飯・パン・麺類など炭水化物中心の食事では、カロリーは足りてもタンパク質は圧倒的に不足。厚労省推奨(男性65g/女性50g)のタンパク質を食事に置き換えると、肉100g(約20g)+卵2個(12g)+豆腐150g(10g)程度でやっとクリアです。
また、高齢者は吸収率が低下するのでこれより多めにタンパク質をとる必要があります。
カロリーが低い野菜・果物中心のヘルシー食に至っては、タンパク質はほぼゼロ。
ダイエット中の「カロリー制限」も、タンパク質を削りがち。
つまり、「食事量=栄養」ではダメで、質が大事になります。

沢山食べたから、栄養は十分というわけでは無いんだね
2. 「夜だけガッツリ食べても遅い」
筋合成は常時必要です。
つまり
「1日1食、夜だけガッツリ」…これ、タンパク質不足の罠です。
食べているのに筋肉が減り、体型が崩れる原因にもなります。
タンパク質は合成のピークが摂取後2〜3時間。1度に分解できるタンパク質の量はある程度の量で飽和するため、夜だけでタンパク質を補うことはできません。
1日のトータルで分割して摂ることを意識しましょう。
3. 「筋肉だけの栄養ではない」
タンパク質は、肌、骨、免疫、代謝、睡眠、ホルモン、メンタルにも直結します。
タンパク質を摂ることは健康なシニア生活を送るにも必要な栄養分です。
意識して摂るようにしましょう。
今すぐできるチェックリスト
10の警告サインから抜粋しました。
次の症状のうち3つ以上思い当たることがありましたら、タンパク質不足も疑って、プロテインなどで手軽にタンパク質を摂取してみましょう。
・ペットボトルのフタが開けにくい
・最近階段の上り下りがつらい
・肌が乾燥・たるむ
・髪・爪が弱い(状態が変わってきた)
・朝だるくて起きるのが辛い
・なんか風邪をひきやすい
・体型が変わった
・傷の治りが遅い
まとめ
タンパク質不足はシニアの健康劣化リスクの最上流にある要因です。
筋肉だけでなく、皮膚、免疫、睡眠、代謝、精神状態にまで影響し、本人が自覚しにくいまま静かに進行しています。自分自身で見た目で気づきやすい、髪や爪の変化を意識しましょう。
タンパク質不足はすぐに改善される物ではありません。
日頃の食生活にタンパク質を効率的に摂れる、プロテインを朝起きた時、夜寝る前に飲むことで改善されます。ぜひ、生活の一部にプロテイン摂取を加えてみましょう。
今回は、「タンパク質不足が引き起こす身体のサイン —— シニアが見逃してはいけない10の警告シグナル」というお話でした。
